〈ツアーレポート〉盛岡の豊かな食の今までとこれからを知る。~オータムスタディーツアー~
盛岡駅西口マリオス。青空広がる中でバスが出発しました。
「今日のツアーは移動距離は長くありませんが、歴史の面白さや盛岡の食と農を体験できるはず。ぜひ、タイムトラベルするような気持ちでお楽しみください。」と美食王国ファンクラブ事務局 北田さんのお話。
バスは普段見慣れた盛岡の街並みを進んでいきます。 最初の目的地は「志波城跡」。前は何度も通っているのですが、中に入るのは初めてなので楽しみです。
ご案内をしてくれたのは盛岡市遺跡の学び館の今野公顕さん。今回はツアーのために特別に、ガイドをしにきてくださいました。
案内所の中は、志波城跡内の発掘調査で出土した資料、土器や、鉄の農工具などがあり、古代の志波城にいた人々の暮らしを垣間見ることができます。床に広がる大きな地図を眺め、お話を聞いているうちに朧げな印象だった当時の様子がだんだんとはっきりとしてきます。
そのあとは坂上田村麻呂が志波城を築城し、地元の蝦夷(えみし)と呼ばれた人たちがその後どんなふうに生きたか、というドキュメンタリーをビデオで鑑賞。
ビデオが終わると今野さんが、「今のビデオに、私が出演しておりました。気づいた方いました?」と和やかに解説がスタート。 「蝦夷(えみし)と呼ばれていた住民の生活は、築城の前後であまり変わらなかったようです。坂上田村麻呂は住民と共に国をつくる政策をとっていたと考えています。争いの形跡が見られなかったので。」
こちらは、遺跡から出土した当時食べられていたお米や豆、トチノミだそうです。
「何を着ていたんでしょうか?何を食べていたんでしょうか?ってよく質問をいただきますが、食べ物に関するものは残らないことが多いのです。そんな中でこれは浅岸の遺跡から出土したもので、大変珍しい。おそらく、家屋が火事になってしまい、食糧が炭化し残る、そういう条件がそろったのだと思います。」
今のお⽶と⽐べると粒は⼩さいようですが、確かにお⽶!常設で展示はしておらず、今回のツアーのために見せてくれたのだそう。豊かだったであろう食生活を窺い知ることができました。
いよいよ門をくぐります。左右に伸びた城壁。曲がらず、まっすぐに建てる技術、当時では相当なものだったのだそう。
「当時は太田地区のこの場所が河にも近く、小高く、城を建てるのには適していたようです。」すぐ近くには見慣れた道路があって不思議な気持ちです。
竪穴の中から白い煙がもくもくあがります。古代の竪穴建物では、中で煮炊きなどに使うためのカマドがあったのだそう。「いぶした匂い、なんだかなつかしいね。」と参加者の方のつぶやきが聞こえました。
食べて、暮らす、1200年前の人間の毎日。志波城のお話を聞きながら、身近に感じられたひとときでした。
バスから紅葉を眺めながら向かった先は御所湖の手前にある「鹿妻穴堰頭首工(かづまあなぜきとうしゅこう)」。いつも御所湖へ行く途中で気になっていた3つ並んだ赤い屋根。どんな施設なのでしょうか?
「ここは用水路のスタート地点です。流れている大きな川が、雫石川。上流には御所ダムというダムがあります。盛岡駅のあたりで北上川と合流してその先へ流れていきます。この施設は、雫石川の水を堰き止めて用水路へ流すための施設なんです。ここからは、盛岡市、矢巾町、紫波町の一部の4600ヘクタールの田んぼや畑に水を送っています。
田んぼで水が必要になる5月1日から15日まで、ここでは1秒間に15tの水を流すことができます。」
かわいらしい建物だなあ、と思っていたのですが、まさに盛岡の今の農業を支える要の施設だったんですね。
420年前の南部の殿様が初めて作った用水路。昔の様子や作るまでの苦労に思いを馳せつつ橋を渡ります。風の音と水の音で隣の人の声も聞くのが難しいほどです。
手すりの近くに寄って下を覗くと、なかなか見ることができない川の様子が見られました。この水が、盛岡近郊の畑や田んぼへと流れていきます。
珍しい景色を前に、カメラを構える参加者の方もあちこちに。見ごろを迎えた紅葉を背景に素敵な写真が撮れたでしょうか。
みなさんそろって一枚パチリ!
バスに戻り、次の目的地へ。秋らしい景色が車窓に広がります。
山々が近く、中心部ではなかなか気付けない季節の移り変わりもはっきりと感じられるのも繋地区の素敵なところ。
次の目的地に到着!つなぎ温泉で唯一、源泉かけながしで作る温泉たまごをご紹介してくださるのは、つなぎ源泉管理有限会社の佐藤弘さん。
「ここは温度が高すぎず、低すぎず温泉卵を作るにはベストな源泉なんです。温泉の朝食でお出ししていたこともあるんですよ。」
温泉卵をお湯から引き上げます。まだ湯気があがるほどホカホカの温泉たまごは、このあとのお昼ご飯でいただきます。
足湯、ならぬ手湯?「足湯よりも手軽でいいですね。」冷たい風で冷えた体、手からじわじわとあたたまっていきます。
つなぎ源泉管理有限会社が、温泉たまごと一緒に取り組んでいるのが、ミニトマトの地熱栽培。お話を聞かせてくれたのは佐藤匡子さん。
「温泉の熱を利用してハウスを温めています。温かいお湯は通路の融雪にも使っています。品種は『あるる』というミニトマトで、太田の若江農園さんに教えてもらいながらチャレンジしています。ここは昭和11年ごろには岩手大学さんと共同研究で温泉熱を利用してメロンを育てていた歴史がある土地で、『昔、メロン食べたことあるよ!』と嬉しそうに教えていただくこともあるんです。温泉熱を活用して、当時のような活気を取り戻していきたいですね。」
今回は若江農園さんのミニトマトを試食させていただきました。みずみずしくてとっても甘い!
ハウスの中はおひさまの光があたたかでトマトたちも居心地が良さそうです。温度は20度くらいなのだそう。つなぎ温泉の恵みを活用したミニトマト栽培。たくさんのお店に並ぶ日が来るのが待ち遠しいですね。
次に向かったのは、一度泊まってみたいお宿。「つなぎ温泉ホテル紫苑」です。外観も重厚感があってみとれてしまいます。
ロビーから見える見事な紅葉に歓声があがっていました。記念写真を撮る参加者の方もたくさんいらっしゃいましたよ。
さきほど源泉から引き上げた温泉たまご、売店で発見しました。引き上げた瞬間を知っていると、なんだか愛着が湧いてきますね。おみやげにもぴったり。盛岡市内だと中央公園にある「Mファーム」さんや、「南部マルシェぞっこん広場」でも購入できるそうです。
ぺこぺこのお腹で向かったのは紫苑の中のレストラン「キャルトセゾン」。会場の外までいい香りが漂っていました。さあ、お待ちかねのお昼ご飯です!
【お品書きはこちら】
- 晩秋の味覚三種盛り
- あじわい林檎ポークとプラチナポーク白金豚の食べ比べしゃぶしゃぶ
- 津志田里芋と鶏肉のクリーム煮 ココットパイ包み焼き
- 天麩羅 盛岡りんご、津志田里芋、海老、獅子唐、野田の粗塩
- 純情米ひとめぼれ
- 地元野菜の漬物
- ひっつみ汁
- 盛岡レアチーズケーキ
「りんごの天ぷらは、野田塩で召し上がってください。お肉はりんごを食べて育ったアップルポークと、花巻特産の白金豚食べ比べをご用意しました。」と、ホテル紫苑の方からご紹介。
たくさんのお皿が並びました!お昼ご飯とは思えないボリュームたっぷりの御膳です。
温泉たまごはご飯にのせてみました。とろりとした口当たりで濃い黄身の味。おかわりをしている参加者の方もいらっしゃいましたよ!
味わいりんごポークと白金豚、二種類の豚肉はしゃぶしゃぶで食べ比べ。食感やコク、交互に食べるとそれぞれの特長がよくわかります。贅沢。
ココットパイの中は、津志田里芋、しめじ、鶏肉。こっくりとしたクリーム煮とサクサクしたパイ生地の食感がアクセントになっています。秋冬にぴったりのあったかメニューです。
デザートはつなぎ温泉名物料理コンテストでグランプリをとった、「盛岡レアチーズケーキ」。うさぎの形にかわいらしくカットされた盛岡りんごも添えられています。甘さ控えめで、胡麻と豆腐の香りが懐かしくて新しい!上にちょこんと乗った黒平豆の蜜煮と一緒にぱくり。お料理で大満足のお腹でも美味しく味わえました。
お昼ご飯のあとは温泉を堪能したり、ロビーでコーヒーブレイクをしたり、お土産を買ったり。それぞれにゆったりとした時間を満喫しました。
次の目的地は盛岡手づくり村。14軒の工房と4000種を超える岩手の特産品がわたしたちを出迎えてくれました。 入ってすぐの場所にあるこちらの南部曲り家は江戸時代後期に建てられたものと言われていて、中には農耕具なども並んでいます。こちらも今度ゆっくりみたいなあ。
まずは二階へ上がり、盛岡の特産食材アロニアについてのレクチャーをしていただきました。
「平成16年、盛岡市南東部にある砂子沢地区でアロニアの栽培は始まりました。寒さに強く、樹木が高くなりにくいので収穫作業は他の果樹と比べると負担は少ないんです。盛岡の特産物としてだいぶ知名度もあがってきています。」
「アロニアは盛岡の砂子沢地区で平成16年から栽培が始まりました。その後、手づくり村(盛岡地域地場産業振興センター)のPB商品としてジャムやアイスクリームなど6種類の商品を販売しています。」と、佐々木さん。
アロニアの商品、こんなに種類があるなんて知りませんでした!アロニアを使ったサプリメントやカレーも人気なんですって。今度食べてみたいです、アロニアカレー。
建物の入口には「MORIOKA 手づくり村マルシェ」のジェラートがあります。わたしは初めて見た「なんじぇら?」を頼んでみました。通常の南部せんべいよりもサクッと食感の柔らかな2枚でジェラートをサンド!いつものアイスのコーンよりも歯応えがよくて私はとても好きなお味でした。アイスが溶けて柔らかくなってくると食べにくくなるので、ぱくぱくっとスピード勝負でいただきました。
手づくり村を出て向かったのは今回のツアー最後の目的地「山口騰果樹園」です。
たくさん実ったりんごが見えてくると、心なしか参加者のみなさんの足取りも軽くなった様子。
お話してくれたのは、山口騰果樹園の山口騰さんと山口茂美さん。
りんご畑の前でパチリ!
「盛岡は、1日の寒暖差があるのでりんごの糖度が高いのです。さらに、木でしっかり完熟させてから収穫するので太陽をいっぱい浴びてさらに美味しい状態でお届けできるんですよ。」と、騰さん。
世界で最も多く生産されている「ふじ」の原木があることでも知られる盛岡市。おいしいりんごづくりの歴史はずっと前から盛岡に根付いていたんですね。
この日収穫できたのは5種類の品種。その中から3つを選んでお土産にしてください、とのことでみなさん畑を歩きながらりんごを吟味。山口さんご夫妻に丁寧に教えていただきながら自分でりんごをもぎます。
数ある中から選んだ私のりんご。嬉しさも美味しさもひとしおですね!
山口騰果樹園を出発し、バスはまた盛岡駅西口へ。今回のツアーの中で、繋地区の食の歴史や温泉の活用について学び、長い時間をかけて育まれてきた豊かな食文化を感じられました。 お天気にも恵まれ、窓の外に広がる紅葉や御所湖の景色も満喫! 温泉たまごやアロニア、盛岡りんごなど、ますます広がりが期待される食材も味わうことができて、これからの盛岡の食に期待が膨らむ1日でした。
写真・文 菅原茉莉
~参加した皆さんの声~
「志波城古代公園は以前に見学したことがあったが、歴史的に専門の方の案内でよく理解できた」
「400年以上の技術、考え方、先を見る目に驚いた(鹿妻穴堰)」
「解説が分かりやすく、とまとも卵もおいしかった。地熱発電等、軌道に乗れば良いと思う」
「ランチは質、ボリュームともに大満足。思った以上にもりおか味わいりんごポークと白金豚に違いがあることにおどろいた」
「アロニアの商品化に向けた御苦労聞き応援したい。アロニアのアイスクリームは初めて食べた」
「おいしいりんごの見分け方、勉強になった」
掲載日: 2022年12月23日